週末〜ウィークエンド〜


 地上のソレスタル・ビーイングの待機場所である無人島で、アレルヤ・ハプティズムとティエリア・アーデが既に一ヶ月近くも待機させられていた。地上嫌いなティエリア・アーデはうんざりしていたが、ミッションプランを変更する訳にもいかず、仕方が無く耐えていた。
 不機嫌なティエリアに比べ、アレルヤは忙しくティエリアの面倒を見ている。
「ティエリア、食事が出来たよ」
 アレルヤはティエリアが所望したホワイトシチューをテーブルに運んだ。
「あぁ」
 ティエリアは不機嫌にテーブルに着く。
「熱いから気を付けて食べてね」
 テーブルにはシチュー、サラダ、パンが並んでいた。
「頂きます」
 ティエリアは丁寧にスプーンを持ち、一口すくった。ふぅふぅ、と息を吹きかけ、有る程度冷めたところで口に含む。クリーミィでまろやか。ベシャメルソースの濃厚な甘みが口いっぱいに広がる。
「美味しい」
 ティエリアは口に合わないと全く食べてくれないが、口に合えばそのままゆっくりと食事を進める。
「口にあったようだね。良かった」
 アレルヤは控えめに言うが、ティエリアはアレルヤの作った料理で気に入らなかったものは無い。
「それにしても今日は寒いね。ティエリアのシチューの選択は間違い無かったようだね」
 アレルヤは自身が作ったシチューを口にして、「うん、美味しい」と言った。
「明日はこれでニョッキが食べたい」
 ティエリアのリクエストにアレルヤは微笑み「了解」と言った。


 その日の夜、寒さは増して厳しいものとなった。
「ティエリア、毛布出すかい?」
 冷え性のティエリアを気遣い、聞いてみた。
「まだいらない」
 ティエリアは言うが、「きっと夜中にはもっと寒くなると思うから、出すだけ出しておくね」とアレルヤは言った。
 ティエリアの気持ちも知らずに……。



「寒い」
 ティエリアは案の定、夜中にもそっと起きてぶるる、と震えた。
「毛布よりもアレルヤが良いのに…」
 ティエリアは「寒いから一緒に寝よう」とアレルヤが言ってくれるかと思っていた。が、アレルヤは毛布を出した。それが気に入らなかった。
(この冷えた手足を寝ているアレルヤにひっつけてやる)
 ティエリアは部屋を出て、廊下を裸足で歩いて行った。
(矢張り靴は履いてこれば良かったな。足が痛い)
 ティエリアは床の冷たさが耐えられなくなり後悔したが、アレルヤの温もりをより感じられると思い、我慢して歩いた。
 アレルヤの部屋に無事辿り着いた。扉をそぉっと開けて忍び込む。
 当のアレルヤは気持ちよさそうに眠っていた。
(幸せそうな寝顔だ…。ちょっと可愛いな)
 ティエリアは思い、冷たい手足をひっつけて起こすのは止める事にして、アレルヤをベッドの壁際へ、手が触れることの無いように布団ごとごろりと転がして、自分もその布団の中に入った。
(温かい…)
 アレルヤの温もりだ。
 早く手足を温めてアレルヤにひっつきたい。せめてアレルヤがパジャマを着て寝る習慣があればくっついていられるのだが、生憎素肌で寝る習慣なので、直ぐに抱きつくことも出来なかった。
 早く温まらないかな、と手足を擦り、息を吹きかけて温めた。
 そうこうしていると、アレルヤが寝返りを打ち、ティエリアの方へ覆いかぶさってきた。腕が背中に回り、アレルヤに抱きしめられる格好になってしまった。ティエリアは突然のことになすすべも無く、ドギマギしながらアレルヤの腕の中にすっぽりと納まり、もぞもぞと自分の位置を固定させた。
(まだ手足が冷えてるのに…。触れないようにしないと、だな)
 アレルヤの温もりに、ティエリアは次第に意識が遠くなっていった。


「ん……ん?良い匂いがする……」
 アレルヤは微睡みの中から現実に引き戻される廻間をウロウロしているところに、自分の好きな香りが鼻をくすぐるのを感じた。
 そおっと目を開いてみる。
 朝のまぶしさの中から、紫色が目に入る。
「え?えぇ!?ティエリア?」
 自分の腕の中にはティエリアが気持ち良さそうに眠っていた。
「え?え???何で?」
 アレルヤは驚きと困惑と悦びとが津波のように押し寄せてくる衝動にかられた。何故ティエリアが自分と一緒に眠っているのだろう?確か昨晩は自分一人でベッドに潜ったような気がする。まさか……そんな筈は無い、と思いつつも、ティエリアが、もしかしたら、僕と一緒に眠りたかった…?とかだったら……。いや、そんなことはティエリアが思うわけが……でも、そうだったら、嬉しいな。
 アレルヤは自分の腕の中に居るティエリアの寝顔を堪能しつつ、頭の中ではぐるぐるしていた。
「可愛い寝顔……」
 唇に人差し指を這わしてみる。唇が少し開いた。
「ティエリア…そんなことしたら食べちゃうよ?」
 アレルヤは薄く開いた唇に、指を差し入れ口内を愛撫した。ティエリアの息が荒くなり始めたところで、口内から唾液がたっぷりと付いた指を抜き出し、再度唇に這わせた。
「いやらしい唇だね」
 ねっとりと艶めいているぷっくりとした唇に、自分の唇を重ねた。ちゅっと小鳥が啄ばむようなキスをアレルヤは何度も落とす。
 ティエリアは王子様のキスで目覚めようとしていた。
「ん…」
 瞼がうっすらと開く。
「おはよう、ティエリア」
 頭の上から優しい声がする。温もりと心音に、はっと気が付く。
(しまった!アレルヤよりも早く起きてベッドから抜け出さなくてはいけなかった!)
 ティエリアは恥ずかしくなり俯いた。とてもではないが目を開けてはいられない。
(なんという失態だ。万死に値する!)
 ティエリアはここで目を覚まして『おはよう!』と元気溌剌に言うべきか、寝たふりをしてそのままやり過ごすか、アレルヤの腕の中でぐるぐると悩んだ。(ここにヴェーダが居てくれたら、どうしたら良いのか教えて貰うのに……!)と思ったが、生憎ヴェーダは何者かに寄って姿を消してしまっていた。
「あれ?ティエリア。また寝ちゃったのかな…?」
 アレルヤはティエリアの前髪を優しくかき分けて、寝ているのか確認する。
「んん?ティエリア、狸寝入りだね?ちゃんと朝の挨拶をしてくれないと襲っちゃうよ?」
 返事の隙も与えず、顎を持ち上げてキスをする。
「ん…んん……」
 ティエリアは急に口を塞がれて、息が出来なく涙目になったワイン色の瞳をそっと開けた。
「おはよ、ティエリア」
 優しく微笑む、大好きな顔が目の前数センチの辺りにある。
 ティエリアはその距離にドキっとした。
「あ…あの、お、おはよ……」
 ティエリアの頬が紅潮していくのが嬉しくて、アレルヤは目を細めた。
(すごく可愛いなぁ。きっと僕が起きるよりも前に起きて、ここから抜け出すミッションプランを立ててたんだろうね。最初から一緒に寝たいって言ってくれれば良いのに)
『あぁ?アイツの性格上、んなこと言える訳ねぇだろうが』
 アレルヤの別人格、ハレルヤが的確な事を言う。
(確かに。ハレルヤ、ティエリアが入ってきたの知ってたんなら起こしてくれても良かったのに)
『俺だって知らねぇよ。興味ねぇしな』
 全く、頭の中の同居人は、協力的じゃあないんだから、とアレルヤは思った。
「ティエリアのお陰ですっごく温かかったよ。キミはよく眠れたかい?」
「あぁ……」
「でも、本当に嬉しいな。今日は物凄く良い事がありそう!」
 嬉しそうに話すアレルヤを見て、ティエリアは何故だ?と聞いた。
「えー。だって、目覚める事の出来た朝、一番に見た人が大好きな人なんだよ?それって凄く幸せ。しかも同じベッドで眠って、同じ体温を感じて。このまま微睡んでいたいなぁ……」
 アレルヤはティエリアを抱きしめた。ティエリアもアレルヤの腕の中で、うっとりとアレルヤの胸に顔を埋めた。
「ここ一ヶ月くらいはキミと僕しか居ないんだから、朝一番はいつも僕の顔を見ているだろう?今までの間、一体どれだけ良い事があったんだ?」
「違いない。ここ最近は一番にキミの顔を見てるね」
 アレルヤはあはは、と笑った。
「良い事は毎日あるよ。今朝の幸せはね、こうやってキミが僕の腕の中から逃げようとしてくれないこと、かな。欲を言うと、僕は一応健康な成人男性だから、もっと先まで進めると嬉しいんだけどね」
「後者の事は聞こえなかった事にする。こうしてキミの腕の中にいるのは、ミッションコールが鳴るまでだぞ…」
 ティエリアも素直では無い分、何かしら言わないと気が済まないのか、可愛くない一言を言ってから、自分の本当の気持ちを伝えた。
「えぇー!残念!!今がダメなら今晩でも僕はいいんだけどね。
 でも、今日はコールが来なければ、ずっとこうして微睡んで居られるんだね」
 アレルヤはにっこりと笑った。
「……善処する」
 アレルヤは更に嬉しそうに微笑んだ。



可愛いのを目指しました!
目指しただけになりましたが・・・。
楽しんで頂けたら幸いです。
…(3点リーダー)は文字化けしちゃうのでしょうか。
心配です。



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