さくらアパートメントへようこそ〜序章〜


 時は2307年。経済特区・東京のとある町。
 さくらアパートメント。
 アパートの入り口付近に大層立派な桜の木が植えられているからか、桜が好きな持ち主だからかは定かでは無いが、さくらアパートメントと名付けられたこのアパートは、資産家であるイオリア・シュヘンベルグが建てた、未来ある若者へ、格安で生活できる居住スペースであった。
 アパートの外観はヨーロッパ圏にあるような洋館風の建物で、現在の景観を損なわないようにか、町からは少し離れた小高い丘の上に建っていた。
 アパートの周りは北側を除いて地面から1メートルくらいをコンクリート、その上に柵が1メートルくらいある塀で囲われている。
 北側が正面になっており、アパートの敷地の左角から奥にかけてアパートの象徴でもある桜の大樹が3本植えてある。現在は夏なので、花は楽しめず瑞々しい青葉が枝一杯に繁っている。右側には駐車スペースがある。車が3台分とバイクや自転車の置けるスペースだ。エコが常識のこの時代に相応しくないガソリン車と、ハイブリッドのワゴンタイプの車が置いてある。
 そこを抜けると居住スペースである、洋館風の建物の丁度真ん中に観音扉が1つ。そこが住人の玄関となっている。扉の右には住人用の郵便ポストが用意されている。大きな荷物の不在時の受取り以外はプライバシーを尊重するためにこのポストを利用して貰っている。
 玄関扉を開けると日本の旅館のように土間があり、靴を脱ぐシステムになつている。これは掃除をするのが手間、という些細な理由からなのだが、普通の家では靴を脱ぐ習慣が無い為、最初は戸惑うが、慣れるとそうでも無くなる。靴を脱いで、玄関収納に片付け、スリッパに履き替えて家の中に入る。普通のアパートと違う部分であるが、まず中に入ってから、各部屋に別れている。これは、元々このアパートのコンセプトが『学生寮』だったために、こういった建物になっているのだ。
 玄関を入って正面に101号室。右へ行くと102、103号室と続いて、一番端に2階へ行く階段が現れる。階段を上ると、手前から206、205、203、202、201号室と続く。
1階と2階の戸数が違うのも、学生寮コンセプトの成せるワザなのだが、101号室だけ広く作られてある。101、201号室を除き全て2DKの部屋で、101号室は2LDK。201号室は1Kなのだ。1部屋の広さは24平米と一緒なのだが(2DKの場合、部屋数2つとダイニングキッチンがある部屋なので、24平米が2部屋と16.5平米以下のダイニングキッチンがあるということ)、101号室のLDKが学生寮のように、住人全員が集まれるスペースとして活用出来るよう、とんでも無く広いのだ。
 部屋の作りはほぼ一緒で、部屋の扉を開けるとダイニングキッチンが現れる。その奥に部屋が設けられ、部屋に入ると奥にべランダがある。ベランダは南向きなので、とても快適だ。ベランダから外を覗くと町並みが一望出来る。目線を下にすれば家庭菜園と花壇が作られており、そして、左には桜が植わっているので春には花見をしたり、バーベキューをしたり・・・、と皆で集まって何か出来るくらいのちょっとしたスペースがある。
 ここ何年かは、双子の居住率が高い為か、ご近所からは『ツインズマンション』と呼ばれている。イケメンと呼ばれるような男性率が高いのもご近所の奥様・お嬢様の間では受けが良い。
 このアパートに住む条件はただ一つ。アパートの経営者である、イオリア・シュヘンベルグが理事長を務める『ソレスタル学園』の関係者であること。つまりは、学生であったり、教員であったり、購買部や食堂の従業員であったりすること。
 それだけである。
 そして、特別広く作られている101号室が管理人の部屋だが、イオリアが住んでいるのではなく、《イオリアの子供達》の長男である、リボンズ・アルマークと、次男のヒリング・ケアの双子が住んでいた。
 各戸にキッチンもバスもトイレも付いているのだが、学生寮コンセプトということもあるし、格安で美味な食事が頂けることもあって、全員が101号室に集まって食事を摂っている。しかも出入り自由だ。リボンズとヒリングのプライバシーは殆ど無くなるが、この部屋にだけ個室に鍵が付いているので、そこが安住の場、ということになる。
食事の時間に101号室に集まるとは言え、この部屋の住人は料理が作れない。そのために、102号室に住んでいる《イオリアの子供達》の長女である、アニュー・リターナーが食事担当である。アニューも双子で、片割れの三男であるリヴァイヴ・リバイバルと同居している。
 アニューの料理は旨いと皆に絶賛で、物凄く美味しいのに、1食たったの300円で食べられるのが、住人の集まる理由を作っている。300円という格安の理由に、家庭菜園の野菜を使っているというのもある。
 この家庭菜園は、103号室に住んでいる、《イオリアの子供達》の四男である、ティエリア・アーデが育てている。ティエリアも同様にして双子で、リジェネ・レジェッタという五男と同居している。
 現在、家庭菜園には、トマト、キュウリ、茄子、トウモロコシ等の夏野菜が育っており、202号室に住んでいる大学助教授のニール・ディランディのたっての願いでもある、じゃがいもも、秋になれば収穫出来る。
 じゃがいもが収穫出来ると、1人を除いてうんざりするほどのじゃがいも料理がテーブルに並ぶ。どのくらいうんざりとするのかと言うと、ニールの双子の弟である、ライル・ディランディまでもがうんざりするくらいの量である。それ程までに、ニールのじゃがいも好きは、周りに迷惑をかける嗜好であった。



 さて、さくらアパートメントの入居者の紹介をしよう。
 202号室は、アイルランド出身の深緋の少しウェイブの掛かった髪の毛と青磁色の瞳、白い肌が特徴の、瓜2つの容姿を持つニールとライルのディランディ兄弟。現在24歳。
10歳の時、父親の転勤をきっかけに、経済特区・東京へ家族全員で引っ越してきたが、その四年後に父親の転勤で再度アイルランドに戻ることになる。が、ニールとライルはこのまま転入したソレスタル学園で勉強したいと、両親と離れて暮らすことにした。それが永遠の別れになるとはこの時は思ってもいなかったのだが、アイルランドへ戻る為の旅客機が整備不良というとんでも無いアクシデントにより墜落したのだ。二人は永遠に両親と妹に会えなくなってしまった。だが、ニールはライルの、ライルはニールの為に、哀しみに暮れていてはいけないと思い、2人で頑張って生きて行こうと決意した。その際に、理事長であるイオリアから、さくらアパートメントへの入居を促されたのだった。現在はニールは大学院へ進み、そのまま助教授へ、ライルは知り合いの出版社へ就職をした。
 203号室は、大学生のアレルヤ・ハプティズムと、ハレルヤ・ハプティズムの双子。現在19歳。人類革新連盟出身の2人は、黄色人種特有の黄色い肌と、黒い髪を持っている。しかし2人は、右目を前髪で隠して銀鼠の瞳をしている穏やかな方がアレルヤ、左目を前髪で隠して琥珀色の瞳をしている荒い性格がハレルヤであるため、双子でも区別が付くのである。
 彼らは生まれて間もなくモレノ・ジョイスの孤児院に捨てられていた。その為、両親が健在かどうかも分からない状況であるが、物心ついた時にはモレノが親代わりだったので、両親のことや、自分たちが捨て子であるということは全く気にしていなかった。モレノはイオリアと友人関係にあった為、モレノの孤児院で育った子供達は、ソレスタル学園へ入学するのが常であった。2人もソレスタル学園へ進み、大学に入学するのを境にモレノの孤児院を卒業し、さくらアパートメントへ引っ越しをした。
 引っ越し後、アレルヤは隣人のニール(の尻)に一目惚れ。元々専攻していた社会福祉学科から、国文科へ変更した程の入れ込みようで、いつもニールにくっついている。だからかライルからは、ニールの身の危険を察知したのか、毛嫌いされている。一方、弟のハレルヤは、歴史文化学科で、考古学・民俗学を研究している。その傍ら、小説家としての顔も持ち合わせており、元々は文学を書いていたのだが、『こっち方面でも書かない?』と編集長に言われて書いたティーンズ小説(とりわけ少女小説の恋愛モノ)がヒットして、現在ではティーンズ小説のオファーで文学を書く時間が無くなってしまっている。流石に少女達の夢を壊したく無いためか、『流矢 晴(ながれや・はる)』というPNで書いており、サイン会など表に顔を出す仕事は行っていない。
 ハレルヤを知っている人からしたら、『アイツが少女小説書いてるの!?ホントに書けるの!?』と驚きを隠しきれないだろうが、側に乙男(オトメン)と呼ぶに相応しい男、アレルヤ・ハプティズムがいるのだ。題材は十分すぎるほどである。そして世話になっている出版社は、偶然にもライルの勤務先でもあった。
 205号室は、大学教授のセルゲイ・スミルノフ(43歳)と、彼の養女である、園児のマリー・パーファシーとソーマ・ピーリスの双子の姉妹(5歳)。セルゲイ自身は、病気で亡くした妻のホリーとの間にアンドレイという長男がいるのだが、とっくに成人しており、1年ほど前に職場の転勤で1人暮らし真っ最中だ。その後、セルゲイの知り合いである、孤児院を営んでいるモレノ・ジョイスからこの双子を預かり、養育者となった。面識はないが、マリーとソーマ、アレルヤとハレルヤは同じ孤児院出身ということになる。
 206号室は、《イオリアの子供達》の従兄弟にあたる、デヴァイン・ノヴァ、ブリング・スタビティ。《イオリアの子供達》のリボンズ以外からは、『兄さん』と呼ばれている。
 現在の入居人は以上である。201号室は、他の部屋とは少し違う為か、はたまた双子でないと入居出来ないと思われているのか、中々入居人が決まらずに、5年ほど空室となっている。
 《イオリアの子供達》については、追々分かってくると思うので、敢えてここでは何も語らないでおこう。












◆ ◆ ◆ 新しい入居者



 ある晩、イオリアから、久しぶりにさくらアパートメントへ行くのでよろしく、と短く連絡が入った。

 朝。いつものように、アニューが朝食の準備に入ると、リヴァイヴが手伝いに来た。
「お早う御座います、アニュー。今朝は何にするんですか?」
 リヴァイヴは丁寧な口調でアニューに尋ねた。双子の兄弟なのだから、砕けて話しても良いものだが、これが彼の口癖なのだ。
「お祖父様が来るそうなので、和食にしようと思っているんです。お味噌汁は最後に作って、今からだし巻き卵と、鮭を焼こうかと」
 小鉢になるようなものは、昨晩作って冷蔵庫の中に入っている。豊富な種類の朝食メニューであった。リヴァイヴは鮭を担当することにし、人数が多い為、グリルとフライパンを使い切り身の鮭を焼いていった。
「お早う御座います」
 次にティエリアが現れた。
「またリジェネを起こしてこなかったんですね」
 リヴァイヴが言うと、「一応声は掛けた」とティエリアが答える。いつものことだった。だが、今朝はイオリアが来るのだ。ちゃんと起こしてくるよう促すと、億劫そうに部屋に戻っていった。
 次々と入居者が起きて、食事の準備を手伝う。ある者は食器を運び、ある者はコーヒー豆を曳きコーヒーメーカーにセットする。そしてやることの無い者は席につき、テレビを見たり、新聞を読んだりしていた。
「よお、ソマリ!頭やってやんぜ」
 手持ち無沙汰のハレルヤが、ソーマとマリーに声を掛けた。
「くっつけてよぶな!ソーマとマリーだ、このバカハレルヤ!」
 朝から賑やかな2人である。だが、これは毎朝の日課で、これがないと始まらない。周りにとっては、喧しく良い迷惑だ。それでも、このやりとりの後、ハレルヤは二人の髪の毛を可愛く結ってやるのだ。今朝は無難に三つ編みでお団子になったようだ。
「おー、可愛い可愛い」
 2人の頭をポンポン叩き、満足そうにしている。2人も鏡を見ながら満足そうだ。
「そざいがいいと、どんなかみがたでもにあうんだ」
 ソーマは嬉しいのだが素直になれない性格なので、こんな口を利くが、ハレルヤには分かっているので、それに関しては何も文句は言わない。反対にマリーは素直な性格をしているため、「おにいちゃん、ありがとう」と満面の笑みでいつものように言う。
 食事が出来た頃、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。建物の外観が洋館風な割には、玄関チャイムは一般的である。
 リジェネをやっとのことで起こしたティエリアが、偶々玄関付近を通りかかったので、玄関を開けるとイオリア・シュヘンベルグの来訪であった。
「お早う御座います、お祖父様」
「お早う。リジュネは眠たそうだな」
「おはよーごじゃいますぅー」
 歩きながら眠ってしまいそうなリジェネに、イオリアは顔を綻ばせた。イオリアは、連れてきた少年を家の中に入るよう促し、一緒にリビングに向かった。
 リビングでは、朝食の準備が整い、仕事や学校があるものは食べ始めていた。
「お早う、諸君。新しい入居者を連れてきた。食事をしたままで結構。耳だけこちらに傾けてくれ。この少年は、刹那・F・セイエイ。私の血縁関係にある子供だ。両親を不慮の事故で亡くした為に連れてきた。今日からソレスタル学園高等部の生徒でもある。仲良くしてやってくれ」
 長年空いていた部屋に入居者が決まった。
「へぇ、変わつた名前ね。あたしはヒリング・ケア。よろしく、刹那」
「彼はこんなナリですが、ウチの次男ですよ。僕はリヴァイヴ・リバイバル。三男です」
 リヴァイヴが言うと、ヒリングが「こんなって何さっ!」と噛みつく。「リボンズう、リヴァイヴが意地悪するぅ」と長男のリボンズに泣きつく。
「やぁ、刹那・F・セイエイ。僕はリボンズ・アルマーク。ここの管理人さ。よろしく」
 ぶーぶー言っているヒリングを横目に、リボンズは刹那に握手を求めると、一瞬戸惑いながらも手を取った。そして、一緒にリビングまで来たティエリアを目で探し、「アンタの名前は?」とぶっきら棒に聞いた。最初誰のことを聞いているのか分からなかったが、目線を感じて、「ティエリア・アーデ」と素っ気なく答え、自分の席に着いた。
「僕はね、五男のリジェネ・レジェッタだよ。ティエリアとは双子なんだ!よろしくね、刹那・F・セイエイ」
 同じ顔をした人懐っこそうな方はリジェネと名乗った。玄関先で会った時は眠たそうにしていたが、どうやらやっと覚醒したらしい。
「ティエリア、今朝は切り身にしましたから、ちゃんと食べてくださいね。あ、私は長女のアニュー・リターナーです。食事の担当をしているので、ここで食べない時は言ってください」
 食べる時ではなく、食べない時、と開くのが習慣になってしまっている。それより刹那は「切り身だからちゃんと食べろ」が気になった。骨があると面倒で食べない、と言う困った性格なんだろうか?出会った瞬間といい、名前を聞いた時といい、素っ気ない態度がとても気になった。
「キッチンは付いているんだろう?」
 刹那は切り身も気になったが、キッチンが付いているのに、何故ここで皆が揃って食べるのかも気になった。すると1人の長身の男性が「1食300円なんだよ。外食したり自炊するより、美人が作った食事だぜ。その方がいいだろう?旨いし安いし楽だしな。オレはライル・ディランディ。お前の隣人だよ」とライルが言った。「旨いし安いし楽」という部分に刹那はなるほど、と納得した。
「さ、お祖父様も刹那も一緒に頂きましょう。朝ご飯食べてこなかったんでしょう?」
 アニューが席に着くよう促し、皆で朝食を摂った。



 食事の後、イオリアはリボンズに「少し話しておきたいことがある」とリボンズの部屋へ行った。
「また、何か企んでるのかしら?2人だけでずるいよね!あたしらにも教えて欲しいわ」
 ヒリングが言うと、リヴァイヴが「必要であればリボンズから指示が来るでしょう」と言った。



ついに始動!w
さくらアパートメントへようこそです。
こちらは序章で、夏コミとスパークで無配しました。
もう紙媒体で作ることは無いだろう、とこっちに載せました。
刹那×ティエリア編を同人誌で出しました。
ライル×ハレルヤ編もちゃんと出来るんだろうか・・・。
心配です。



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