お茶でもどうかな?


 ミッション明けの久しぶりの休暇。
 アレルヤの考案で、地上のアレルヤが待機しているアパートへ行くことになった。
 近所に美味しい食事とドルチェが戴ける店があるらしく、一緒に行きたいんだそうだ。だが、地上はティエリアにとって苦手な場所でもある。行くことに対して渋ったものの、アレルヤのしょんぼりした表情に負けて仕方が無く行くことにした。
「ここが僕の部屋だよ」
 アレルヤらしい、慎ましやかなアパートの一室に招かれた。
 部屋の中も質素で実にアレルヤらしい。ベッドと机、小さな本棚くらいしか見当たらない。
「何も無い部屋だな・・・」
「寝に帰るくらいだからね。必要の無いものは置かないようにしてるんだ」
 だがキッチンには冷蔵庫、テーブルや様々な食器や調理道具が揃っていた。
 キッチンに目をやっているティエリアを見て、「地上勤務の時は自炊してるから、キッチンには色んなものがあるんだよ」と言った。
 アレルヤは料理が上手で、プトレマイオスでも宇宙食に飽きた頃、地上で食材を買い込みみんなに振舞ってくれていた。
 道具が揃ってるならアレルヤが作った食事の方がいいな・・・、とティエリアは思った。今日はその美味しいとやらの店に行き、明日はアレルヤの食事にしよう。ティエリアはアレルヤに聞いてみた。
「え、ティエリア。僕が作った食事でもいいの?他に美味しい店は沢山あるんだよ?」
 アレルヤは驚いた表情を見せた。
「多分、キミの作った食事の方が旨いと思う」
 ティエリアの嫌いなものは知っていたので絶対に入れないし、面倒な味付けの説明もしなくてもいいし、兎に角楽なのだ。
「じゃあ、明日は一緒に食材を買いに行こう。ちょっとしたデートだね」
 アレルヤは頬を染めて嬉しそうにティエリアに提案した。
 アレルヤの表情がだらしなく緩んで、ティエリアを嬉しくさせる。
 風貌はキリっとしていて頼り甲斐がありそうなのに、性格は犬でヘタレ。自分が褒めるとすぐにだらしの無い顔で、無い筈のしっぽをぶんぶん振っているような幻覚さえ見える。この男をそうさせているのは自分なんだと、なんだか優越感に浸ってしまう。
「どうしたの?ティエリア。一緒に買い物に行くのは嫌だったのかな?ここで一人でお留守番してた方がいい?」
 返事が無かったからか、話しながらどんどんしょんぼりとした表情になってくる。
 このしょんぼりは計算ではなく素なんだろうな、本当に俺の決断を鈍らせる嫌な恋人だ、と思いふっと笑った。
「え?ティエリア笑った・・・。そんなに僕は変なこと言ってるのかな?」
 物凄く焦っているアレルヤを見るのも楽しい。
「俺の思考が漏れていないのが良く分かるな。昔200年前にドラマでやっていたという『サトラレ』という者だったら、アレルヤを喜ばせてばかりいただろうに。
 いいぞ、そのデートとやらをしよう」
 アレルヤには『サトラレ』という言葉は分からなかったが、ティエリアの思考が、自分を喜ばすようなことに嬉しくもあり、かなり気になった。でも教えてはくれないことは分かっているので、ティエリアが言いたくなったら聞こうと思った。
「ティエリア、まずはお茶でもどうかな?」
 ダイニングに勧めて、アレルヤはお湯を沸かす。
 今ティエリアが飲みたいだろうな、と思われる紅茶の茶葉を取り出し、ポットに入れた。



おしまい








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