ロックオンの置き土産


 ロックオンが死んだ。
 俺の目の前で爆発した。



 ソレスタルビーイングに連れてこられた時から、俺はロックオンに面倒を見られていた。慣れるまでは同室で過ごした。
 人に不慣れな俺は、とても煩わしかった。だが、ロックオンは俺を馴染ませるために色々としてくれていた。俺のことなんか放っておけばいいのに。
 それはティエリアに対しても同じで、アイツもロックオンを煙たがっていた。
 だが、ある日を境にロックオンに心を許すようになっていった。
 羨ましかった。
 俺がティエリアを好きだという気持ちはロックオンは知っていた。俺が言った訳ではなく、勝手に感じ取られてしまっていた。
『刹那、お前さんひょっとして、ティエリアのこと好きなのか?』
 何を言っている。
 俺はどうしてそんなことを言い出したのか、不思議で仕方が無かった。
『いやさ、お前ガン見してるぞ?好きな子に構ってほしくてイタズラしてるガキと一緒だぞ、お前のやり方』
 アイツは苦笑を浮かべてこう言った。
『もっと素直になればいいのに。お前もティエリアも。ホント、似てるよな。きっと仲良しになれるぞ』
 笑って俺の頭をぽんと手が触れた。
 ロックオンの大事にしている手で。指で。
 仲間とは言え、そんなに気を許しても良いものだろうか、と俺は思ったが、アイツはそんなのお構いなしだった。
『まぁ、性別のことは置いといても、お前さんが興味示すなんて珍しいからな。その思い、大切にしろよ』
 ロックオンは笑っていた。



 帰還した俺は、少しの整備を手伝って、次の戦闘まで待機命令が出た。兎に角次の戦いに備えて体を休ませろ、と言う事だ。
 俺はティエリアの様子を見に、アイツの自室へ向かった。ブザーを鳴らそうかどうしようか、躊躇いながら、扉にそっと耳を近づけた。聞こえてくるはずは無いのだが、ティエリアが泣いているような気がした。
「ティエリア、いるのか?」
 ブザーは鳴らさずに、扉越しに声をかけた。
「何か用か?」
 少し間があいたが、応えてくれた。
「用というわけでは無いのだが・・・」
「ならば一人にしてくれ」
 口籠もっているとそう言われた。
「そうか・・・」
 次の戦いまで会えないのか・・・と思うと、無性に顔が見たくなる。だからといって、考えたところで会う理由など出てこない。
「その、すまなかった。アレルヤが言っていたのに・・・。戦力が分断されてこんなことに・・・」
 俺が話し終わる前にプシュっと空気音が鳴り、扉が開いた。
「そのことなら仕方が無い。あれはロックオンが言ったんだ。正規軍のトリニティへの紛争に対する武力介入だと・・・。そしてキミが行った。ただそれだけのことだ」
 ティエリアの目が少し赤い。もともと紅玉の色をしているが、それ以上に赤く瞼が腫れていた。
「ティエリア・・・」
「私も悪い。ヴェーダに固執したばかりに彼に傷を負わせてしまった。戦闘データを見ると、死角からの攻撃に避けきれなかったと。右目の損傷が原因だ。だが、彼も悪い。医療用ポットに入っていれば・・・、私が外側から掛けた自室のロックを解錠しなければ、こんなことには・・・」
 ティエリアの目にじわりと涙が浮かび、一滴落ちた。
 真珠のような涙。
 綺麗だ。
「ロックオンは幸せなのだろうか・・・。命と引き替えに家族の仇を取った事に対して・・・」
 再度涙がティエリアの頬を伝った。
「ロックオンが好きなんだな・・・」
 つい口から出てしまった。しまった、と思った時には時既に遅し、だ。
「?キミだって好きだろう?」
 不思議そうな顔をして俺の方を見ている。
「ロックオンが逝ってしまって、気が動転するのも分かる。だが、このような状態だと次のミッションに支障が出る。私の部屋で休むと良い」
 そう言って自室に入るよう促された。
 意外と冷めているな・・・。確かにコイツはそういうヤツだったのかもしれない。それとまた一人称が変わっている。何かがある度に変わっている気がする。
「ロックオンは、私のことを知っているようだった。マイスターの情報は、レベル7でも特に重要項目だ。だから、普通の人間には知られないようなセキュリティの高い部分にある。だから、何故彼が私のことを知っているような言動をするのか不思議だった。という部分では興味のあるニンゲンではあったな。そして、ニンゲン、というものに興味を持たせてくれたのも彼だ。彼には色々と教えて貰い、そしてまだまだ教えて貰うことが沢山ありそうだった。
だが・・・。彼は私たちよりも、家族の仇討ちを選んだ。それを間違いだとは思わない。家族というものが分からないから、優先順位が分からないだけかもしれないが。キミならばロックオンの気持ちは分かるんじゃないか?」
ティエリアはそういうが、俺は・・・
「すまない。そんな顔をさせたくて話したわけでは無いんだ。ただ、家族という物は、物凄く大事な物なんだな、と思っただけだ」
 ティエリアは家族を知らないのだろうか?孤児だったのか?
「では、俺と家族になるか?俺は・・・神を信じていた頃、アリー・アル・サーシェスに言われて、家族を・・・撃ち殺した・・・・・・。そんな俺に家族という温かい場所を持つ資格など無い。が、お前となら、家族になりたいと思う」
 そんな願い、本来ならば願ってはいけないものだ。叶うわけも叶うはずもない。だが、願わずにはいられない。俺は、ティエリアのことが好きだ。
「ははは。キミと僕が家族に?それはプロポーズというヤツか?」
 何故そうなる・・・。俺は肩の力が・・・というより全身の力が抜けた。
「どうした、刹那・F・セイエイ?」
「どうしたもこうしたも・・・。どこで『プロポーズ』という言葉を覚えたんだ?」
 ティエリアが冗談を言うような性格を持っていないというのは理解している。だが、こんなことを言うヤツでもない。一体どうしたと言うんだ・・・。
「ロックオンが言っていた。私が余りにも刹那を監視しているから、『そんなに好きならプロポーズでもしてみろよ。きっと上手くいくぜ』と笑っていた。その時に『好き』と『プロポーズ』の意味を聞いた。ずっと一緒にいたいと思う気持ちと家族になる約束をすること、だそうだな。ニンゲンは逐一そんな堅苦しいことをやる生き物なんだな、と唖然とした」
 何か少し間違っているような気がする・・・。というより、俺を『監視していた』が、なんで『好き』になるんだ?それより監視されるような事、していたのか?
「あぁ、それは、刹那を監視している内にキミが考えているとことか、どうしてこういう行動を取るのかが分かるようになってきて、それをロックオンに言ったら、『それは好き、という事だな』と言われたんだ。私がニンゲンを好きになるなんて、そもそも好きや嫌いの概念など無い筈なのに・・・と思ったが、キミを見ていたらアレルヤが貸してくれた恋愛小説に書いてある状況と酷似していたので、納得した」
 あぁ、ロックオン・・・。なんという置き土産というか、多分、ティエリアは良く分かってないと思うぞ・・・。
 爆風に巻き込まれて死んだ、と思っていたが、アイツを生きてここに連れてこい!と言いたい気分になってきた。
 絶対にアイツは生きている。
 生きていると信じたい。
 そうでなければ、俺のこのモヤモヤとした気分をどう晴らしたら良いのか分からない。
ティエリアに間違っていること教えて逝くな!
「ティエリア、恐らくそれは『好き』ではないと思う・・・。まぁ、俺はそんなお前も全部ひっくるめて好きだけどな」
 ティエリアは不思議そうな顔をしていたが、「私の気持ちは間違っていないと思うぞ?それにキミは私を好きだと言った。相思相愛でいいではないか」とふわりと笑った



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