君を見つめる瞳
俺はずっと見ていたんだ。 あの出会いから、俺はお前を見続けていた。 いつもお前の瞳は宇宙を見ていた。 ただ・・・見ていた。 そして、その瞳はある男への眼差しへと変わった。 俺は・・・ただ見ていることしか出来なかったんだ。 俺に向けられることのないと思っていたその瞳を・・・ アニュー・リターナーがあのようになってしまった時、ティエリア・アーデは少し鬱ぎ込んでいた。 あるとき、ティエリアは刹那の部屋を訪ねた。 「刹那・・・お願いしたいことがあるんだ」 ティエリアが刹那にお願い事というのは、青天の霹靂のような大事件だ。 だが、そんなことは言っていられないような様子のティエリアに、刹那は「どうした?」と言葉少なめに答えた。 「僕はアニュー・リターナーと同じ、イノベイターだ。アニューと同じようにリボンズに精神を乗っ取られる可能性も否定できない。・・・・・・その時は」 俯いていたティエリアは顔を上げて、刹那の瞳を見つめた。 「君に撃って欲しい」 刹那を捕らえる瞳はとても美しく、刹那を魅了した。それとともに、ティエリアがイノベイターであると言うことに軽くショックを受けた。ただ、ティエリアの変わらない姿を見ると納得もした。 「了解した」 刹那は短く返事をした。 「だが」 安堵の表情を見せたティエリアに刹那は、「お前は俺たちの仲間だ。それだけはお前の心にも留めておいてくれ。乗っ取られそうになったら、ちゃんと抵抗してくれ。抵抗しても乗っ取られてしまったら・・・迷わずお前を撃つ」 みんなを傷つければお前が悲しむ。お前が悲しむくらいなら、俺が撃ってやる。 刹那は心の中で言葉を発していた。 刹那のまっすぐな瞳を、ティエリアは見つめていた。 「有り難う。君なら承知してくれると思っていた」 寂しそうな笑顔を作り、ティエリアは刹那の部屋を後にした。 ここはヴェーダのある、コロニー型外宇宙航行母艦『ソレスタルビーイング』。 刹那はここにいる、ティエリアに会いに来ていた。 『どうした?刹那』 「・・・・・・いや、何でもない。ただ思い出していただけだ」 『何をだ?』 「お前のことを」 刹那はヴェーダとリンク中のティエリアと対話していた。 『僕のことを?』 「あぁ、そうだ。最初に会ったときから今まで・・・。お前の瞳はあの時以外俺を見ることは無かったな、と」 刹那が青白く輝くヴェーダの中心を見て言った。 あの時・・・。ティエリアがまだ、イノベイドとしての記憶が無く、アニューの乗っ取られた姿を見て、自分が乗っ取られたら撃つようにと刹那に頼んだ日のことだ。 『そうだったか?』 「あぁ、そうだ」 刹那は短く返事をした。 『刹那・・・・・・君を巻き込んでしまって申し訳なかった。本当はもっと早くに謝罪すべきところだったのだが、こんなに遅くなってしまった』 「謝罪?なんのことだ」 『君をイノベイターにしてしまったことを・・・・・・。 僕とリジェネは、リボンズのイオリア計画を歪めてしまった行いをどうしても阻止しなければならなかった。僕ら末端のイノベイドはリボンズに造られたのだが、イオリア計画自体はイオリアから直接聞いていたんだ。ヴェーダを通じてね。イオリアはリボンズが歪むことすら予測していた。そのリボンズを駆逐すべく革新者・・・即ちイノベイターを出現させる為に、僕は人間を観察していたんだ。ガンダムマイスターとして。そして、ガンダムマイスターとして選ばれた君を観察していて、君なら真のイノベイターとして人類を導いてくれるだろうと確信した。00ガンダムのツインドライブシステムを発動させることが出来た君を』 『そして、王留美を使って君をヴェーダのポイントにくるよう促したのは僕だよ、刹那・F・セイエイ』 ヴェーダから発せられる声が変わった。 「リジェネ・レジェッタ・・・・・・」 『そうだよ。ティエリアが中々イノベイドとしての記憶を取り戻さないからどうしようかと思ったけど、ギリギリになって目覚めてくれて本当に良かった。僕たちはイオリアに託されたこのイノベイドの力を使って君を革新させ、隙を突いてヴェーダを乗っ取る作戦に出た。ただ、僕やティエリアの能力では荷が勝ちすぎていてね。二人掛かりで乗っ取るしか方法は無かったんだ。だから、人の形をした器を捨ててヴェーダを乗っ取った。 ティエリアには内緒にしていたことなんだけど、そろそろ僕らの器の修復は出来たんだろう?』 リジェネが刹那に問いかける。 実は、刹那がプトレマイオスに一時帰還した時のこと、リジェネが自分とティエリアの器を、ヴェーダのアクセスルーム下階にある、イノベイドが造られたラボのカプセルの中に放り込むように依頼をしていた。そのカプセルの中で時間をかけて自分たちの器を修復していたのだ。 「あぁ、もう傷も塞がっている。顔色も良くなった」 刹那は定期的に二人の器の修復状況を見に来ていたのだ。 『どういうことなんだ?僕は・・・リジェはまた人の姿でみんなの元に戻れると言うのか?』 ティエリアは何事も知らなかったために驚いた声で刹那に聞いた。 「あぁ、またお前はおかっぱ頭で不遜な姿を見せることが出来るな」 『不遜とはどういうことだ!万死に値する!僕は驕り高ぶっていたり思い上がっていたことは一度も無い!』 怒った様子のティエリアに、刹那はふっと笑った。 「その姿になっても変わらないな、ティエリア。その方がお前らしい」 どういうことだ!とティエリアはムッとしてリジェネにチェンジした。 『あはははは。ティエにそんな口利けるの、君だけなんじゃないかい?さぁ、早くカプセルを持ってきて欲しい』 「了解した」 カプセルを持ってくる為に、ヴェーダのアクセスルームを後にしようと歩き出した刹那は、ふと疑問に思ったことを振り返り聞いてみた。 「ティエリア、どうしてお前はリボンズに乗っ取られなかったんだ?」 『何を突然。・・・まぁいいか。僕には脳量子派を遮断させるための措置がされていたんだ』 「脳量子派は遮断できるのか?」 『アレルヤに、他からの脳量子派を遮断するのにハレルヤがいるように、僕には遮断アイテム・眼鏡があった。だからリボンズの脳量子派の干渉を受けずにすんだんだ。リジェネが眼鏡をかけているのは、僕の眼鏡が脳量子派遮断アイテムと気付かれない為だ。ヴェーダとのリンク中に眼鏡を外していたのはこのためだったんだよ』 眼鏡とは色々と便利なアイテムなんだな・・・と刹那は思い、ラボへ向かった。 ティエリア・アーデ。 リジェネ・レジェッタ。 この二人はイオリアから授けられた名前の通り、地球を、人類を、繋げ再生させる為にイノベイド能力を駆使してきた。これからは、自分の長い人生を楽しく幸せに生きていて欲しいと俺は願う・・・・・・。 |