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ここはソレスタル保育所。 スメラギ・李・ノリエガという女性が世の働くお母さんの為に、24時間営業の保育所を設立したのはつい最近の事。設立したばかりなので、預かる子もそれ程では無いのだが、こういった形の保育所はまだ珍しいので、直ぐに預かる子も大勢になるだろう。そういう想定もしているので、結構広めの部屋を幾つも持つ、自社ビルになっている。 「はい、これがお手本ね。でもこれと一緒の物を作ってはダメだよ?自分の好きなように作ってご覧」 アレルヤ・ハプティズム先生が穏和な笑顔で子供達にサンドイッチの作り方を教えている。包丁を使わなくても良いように、予めカットしてある野菜や果物、ハム等の肉類が皿の上に乗っており、大きなテーブルに材料と各々の使うまな板が置かれていた。 皆元気に作り始めている中、ティエリア・アーデだけは立ちすくんだまま、じぃっと材料を見つめていた。 「どうしたの?ティエリア」 中々作り始めないティエリアを心配して、アレルヤが側により聞いてみた。 「同じ物を作るなら簡単に出来るが、好きな物を作れと言われても困る」 ティエリアはとても優等生だ。だが、指示でないと動けない部分がある。自分で決める事が出来ないのだ。だからこそ、今日はこういった授業にしてみた、ということもアレルヤにはあった。 「そうだね。ティエリアは同じ物を作ったり、絵を描いたりとかはとても上手に出来るよね。でも、こうした自分で考えて自分で1から作り上げていくのは、ちょっと苦手だよね。でも、苦手な物があるのって悔しいよね?だから、ちょっと頑張ってみようか」 アレルヤは自分の事を全てお見通しなんだな、大人だから分かるのかな、とティエリアは思って、確かに同じ保育所に通っている刹那にバカにされるのだけは嫌だ、と思い材料に手を伸ばしたが、どうして良いのか分からなくなり手を引っ込めた。 「ティエリアはこの中で何が好き?」 何故そんなことを聞いてきたのかが分からず、アレルヤの方を向いて、「栄養のあるものは好きだ」と言った。 「んー。そうじゃなくてね。栄養のあるものは確かに全部摂った方が良いんだけど、自分の味覚…味が好きとかあると思うんだよね。この野菜の中でどれが一番美味しいと思うかな?」 アレルヤはティエリアに自分の意図を分かって貰えるように、言葉を選びながら話す。 「味…。トマトは好きだ。ピーマンは苦いから苦手。レタスは味があんまり無いから好き。きゅうりは青臭いから嫌だ」 ティエリアはボソボソ言いながら、好きと嫌いに野菜を分け始めた。それを見てアレルヤは(なんて可愛いんだろう……)と目を細めた。 「じゃあ、野菜はレタスとトマトを使おうか。ティエリアのサンドイッチには果物は乗せる?」 「トマトとレタスに果物が合うとは思えない。甘みと酸味はトマトで充分だ」 (また頭で考えようとしてるね…) アレルヤはやってみないと分からない、という冒険もさせてあげたかった。 「でも、合うか合わないかはやってみないと分からないよ?」 「やってみなくても分かる!」 ティエリアはしつこい、と言わんばかりに可愛い顔で睨み付けた。 (睨まれても可愛いんだけどね) アレルヤは思ったが、ティエリアの一所懸命さに微笑ましく思い、ちょっと不謹慎だよね、と自分自身にツッコミを入れてみた。 「じゃあ、先生は野菜と果物を使ったサンドイッチを作ってみようかな」 「絶対美味しくない!」 「よし、じゃあどっちが美味しいか競争しようか?」 アレルヤは意地悪な笑みでティエリアを挑発した。 「望むところだ」 ティエリアも頑固なので、挑戦を受けた。 (僕もいい加減大人げないよね…) アレルヤはティエリアの作るサンドイッチのサポートをしながら、自分も野菜と果物のサンドイッチを作った。 「さぁ、みんな出来たかな?」 元気な声で「できたー!」と響き渡った。 「じゃあ見せて貰うね」 そんなに人数が居ないので、1人1人のアピールを聞きながら「凄いねー」と相づちを打ちながら見ていた。 ティエリアは端っこに居た為、この周り方だと自分が最後なんだな、と思いながらドキドキしていた。絶対他のみんなよりも美味しそうだと言わせてやるんだ。栄養にも拘ったスペシャルなサンドイッチ。 まぁ、本当にスペシャルではあるのだが。 「最後はティエリアだね」 「あぁ。これは僕の好きな野菜やハム、チーズを使い、マヨネーズソースも自分で作ってみたんだ」 「へぇ、手作りのマヨネーズソースなの?」 (いつ作ったっけ?) と考えながら、作ったって言ってもマヨネーズと何かを混ぜただけだろうな…と安易に考えていた。 「じゃあ、今日のお昼ご飯は自分で作ったサンドイッチを食べようね」 わーい、と甲高い歓声を響かせながら、半分こにしてお友達と分けている子や、美味しそうに食べる子、欲張って沢山詰め込んだのでボロボロ零す子、色んな楽しそうな顔を見ながら、アレルヤは楽しそうに微笑んでいた。 「あ…アレルヤ先生。野菜と果物のサンドイッチが美味しいのか評価してやる。そうしたら先生の食べる物が無くなるから、僕が作ったスペシャルサンドイッチを特別に食べさせてやる」 「え、いいの?有り難う。楽しみだな、ティエリアのサンドイッチ。はい、これが僕が作ったサンドイッチだよ。ティエリアの苦手な物は入っていないから大丈夫だよ」 「心して食せ」 いつも何かを超越したようなティエリアの瞳は、アレルヤが自分のサンドイッチを食べて美味しいと褒めてくれることを期待したようなそんなワクワクとした子供らしい瞳をしていた。 「ティエリアも食べてみて」 にこにこと笑うアレルヤの顔を見て、こくりと頷き恐る恐る口にしてみた。 「何故だ…?凄く美味しい」 「でしょう?やってみないと分からない事なんて、この世界にはたっくさんあるんだよ?」 くすり、と笑いながら「じゃあ僕も頂くね」とティエリアの作ったサンドイッチを口にした。 途端アレルヤはひっくり返った。 「大丈夫よ、ティエリア。アレルヤ先生は最初から体調が悪かっただけなの。決して貴方の作ったサンドイッチが原因では無いわ。気に病まないで?」 職員室に運ばれたアレルヤを横目に、スメラギがティエリアを宥めた。 「だが…僕のサンドイッチ食べた途端倒れたんだぞ」 大きな瞳に一杯の涙を溜め、溢れ流しながらティエリアはどうしたらよいのか分からなくなっていた。 「あー、コイツが倒れるほどのスゲーもん作ったのか?そりゃスゲーや。俺も食いたかったなぁ」 双子の弟で、同じ保育所の先生でもあるハレルヤ・ハプティズムが、ゲラゲラ笑いながらティエリアの頭を撫でた。 「あるわよ?有り難く持って帰って晩ご飯にしたら?」 先程つまみ食いをして、自身も吐き出した、疑惑のサンドイッチを何も知らないハレルヤに勧めた。流石はと言ったところでその場で食べるように勧めなかったのは、ハレルヤまで倒れられたら困るからだ。子供心がこれ以上傷つくのを恐れているから、という理由が一番なのだが。 「そりゃ有り難い!ティエリア、サンキューな!」 頭をガシガシと撫でられて、気分を悪くしながらも、「本当に良いのか?それの所為で死んだらどうする?」と言ったが、ハレルヤが「んなわけ有るわけねーだろ!こんなに旨そうに出来てるじゃねーか!こんなんで死んだら笑いながら化けてでてやんよ!」とティエリアに言った。 「ハレルヤ先生?そんな口の利き方はダメだって言ったでしょ?」 スメラギに嗜まれ、ハレルヤは悪びれた様子もなく、「別嬪さんに睨まれたって、痛くも痒くもねぇなぁ。むしろもって睨んで?みたいな」とぎゃははははと笑った。 「からかうヒマがあるなら、さっさとアレルヤ連れて帰って頂戴!」 スメラギはハレルヤの嘲笑に憤りを感じて、帰るように促した。 「ごめんね、ティエリア。あんな変な先生ばっかりで。もうそろそろおうちの人が迎えに来てくれる時間ね。一緒に待ってましょうね」 とティエリアの手を引いて、スメラギは教室に向かった。 …早くあの疑惑のサンドイッチを食べて倒れるが良いわ。 とスメラギがハレルヤを呪ったとか呪っていないとか……。 |