セイエイさんの家に遊びにきました

「せーつな、遊びに来たぞ♪」
何がそんなに嬉しいんだと聞きたくなるような満面の笑顔で、両の手を広げたロックオン・ストラトスが、開いた扉の向こう側にいた。
突然、ロックオンからこの部屋に立ち寄ると連絡が来たのが30秒前。
『結構だ』と口にした断わりの言葉は、ロックオン的に『それは結構なお話です』と勝手に前向きかつ自分に都合の良いように変換され、はっきり『来なくて良い』もしくは『来るな』と口にしなかった自分が悪かった、と諦めながらも、簡単に扉を開けてやるのも業腹で、開いた扉にはしっかりと極太のドアチェーンが掛けられている。
「ドコノドチラサマ?」
「つーめたいなぁ、刹那。それより、これを開けてくれよ?」
下から睨み上げる冷たい視線に何も感じていないようで、ドアチェーンに指先を掛けてガッチャガッチャと揺らしながら音を立てる。
「せーつな。早く開けろって」
ロックオン本人にその自覚は無いのだろうが、陽気に話すその声はデカイ。
大きな声で話していれば、やがてそれに気付いたお節介焼きな隣人が顔を出し、更に厄介な状況が出来上がることが簡単に予想できたため、人の迷惑も顧みず突然お宅訪問をする厄介な自称マイスターの兄貴を室内へと招き入れた。
「あれ?」
ドアチェーンを開け、扉の内側に入れた途端に、ロックオンから疑問形の声が上がる。
「ジャパニーズスタイルって、靴を脱ぐんじゃなかったのか?」
どうやら、靴を履いたまま玄関と廊下の段差に足を掛けた刹那の姿に違和感を感じたらしい。だが、この経済特区の文化がどうであれ、ここしばらく、自分はこうしてこの部屋での生活を営んでいる。
「問題ない」
「問題ないって・・・いやいやいや、大いに問題ありだろう、刹那?この間来た時には確かきちんと靴を脱いで中に入って行っただろうが」
「ちっ」
覚えていやがったか。全く、肝心なことはポロポロと取り零す記憶力のくせに、こうしたどうでも良い事にだけは嫌に記憶力が良い。
「・・・刹那。今の舌打ちは何かな?」
今の間。何か感付いたらしい。
「何でもない。それより俺はこれから用事が…」
これ以上ここに留まれば、更に自分にとって厄介でかつ鬱陶しい状況になるだろうことは、かの『KY』と評されるアレルヤだって気付くだろう。
ロックオンの背後に見える筈の無いおどろ線がにょろりにょろりと尻尾を出し始めたのを見て、さくさくと現状よりの離脱を図るべく、縦にも横にも鬱陶しいくらいデカイ男の横を目一杯間を空けてすり抜けて・・・行こうとしたところで、がっしり腕を掴まれて、その行動を阻まれた。
「せーつな、どこに行くのかな〜」
声は楽しそうだが、眼は笑っていない。
一応、顔の表情筋は笑顔位置に固定されているようだが、笑っていない眼と、やはり見える筈の無い縦線が、ロックオンの額から目元に掛けて何本も落ちてきて、一種異様な雰囲気を醸し出している。
こんな時のロックオンには、どう抗っても無駄だと過去の積み重ねによって嫌に成程理解させられているので、刹那は大きく諦めの溜息を吐いた。
「やっぱり、前触れ無く来て正解だったか!!」
ロックオンが刹那の部屋を強襲するのは、実はこれが初めてではない。
連絡を入れてから立ち寄れば、刹那の部屋に辿り着く前に姿を消してしまうという事を、これまたロックオンも過去の経験から熟知しているため、ギリッギリまで連絡は入れずに、突然押し掛ける様にしている。
刹那の暮らすマンションの出入り口は一か所。その前に立ち、エレベーターの目的階表示のボタンを押した後で、連絡するのだ。
『今から行く』と。
流石に、そこまで来られていては今更姿も隠せないとそれなりに諦めるようではあるが、そんな態度を取るくらいなら、始めから人の注意を聞き入れろっ!と、刹那の柔らかくも形の良い耳たぶをぎうぎう引っ張って言ってやりたいのだが、可愛過ぎて出来ないとか思っている辺り、かなり腐れているようである。
片手に刹那の腕を引っ掴んだまま、少し身を屈めてもう片方の腕を、先ほど刹那が靴を履いたまま上がろうとしていた廊下に伸ばす。
綺麗な飴色のフローリングに指先を走らせれば、靴に付いていたのだろう細かな砂の感触と、更に細かくかつ柔らかな感触が皮手袋越しに指先に伝わった。
「刹那」
「あぁ」
「今回のミッションの関係で、お前さん、ここに何日いるんだっけ?」
「今日で10日目だ」
「刹那」
「あぁ」
「前回ここを使ったのはいつだ?」
「恐らく、38日前だ」
「刹那」
「あぁ」
「前回、俺が買って置いておいた掃除機はどうした?」
「お前がしまった時のままだが」
「・・・・・・」
革の手袋は、綺麗な茶色だ。
それが今はアレルヤの目の色よりも暗いグレイに変色していて、更にふわりふわりとした柔らかなものが付着している。
平たく言えば綿埃と砂埃が皮手袋に付着していた。
軽く指先で擦っただけでこうなるのならば、確かに靴を脱いでどうこう、等というジャパニーズライフスタイルは貫けまい。
前回も前々回も同じような事があり、箒やハタキやクイッ○ルワイパーや掃除機やダス○ンやモップや化学雑巾等を買い与えたのにも関わらず、それらは一切活用されていないようだった。
「刹那」
「掃除は・・・」
「しなくても人は死なない」
「・・・」
余りお行儀的には宜しくないが、靴を脱いで中に踏み入れば、足の裏はこの指先と同じ素敵な色に染まってしまう。心の中で誰とはなしにごめんなさいと唱えながら、靴のまま刹那に用意された部屋の中へと上がり込んだ。
まず、向かうのは更に心配なキッチンだ。
掃除が行き届いていないなら、ごみ箱などは更に恐ろしいものになっているのでは。もしかしたら黒光りも艶やかな家庭内害虫の根城と化しているのではないだろうかと、キッチンへ続くガラスと木枠で綺麗に装飾された扉をがちゃりと開いてみた。
「・・・あ、良かった」
見た目だけならピカピカ・・・というには、積もった埃で語弊があるが、食べ散らかした
ものが散乱していたり、洗い物が山と積まれていたりする様子はない。
以前はそうしたもので地層が形成されつつあった事を考えると格段の進歩のように見える。
が。
「いやいやいやいや、待てよ俺。良く見て、考えろ?」
以前は地層を成していた皿もカップもコップも丼も、ファーストフードの残骸もカップラーメンの入れ物も何もかもが無い。
無言でキッチンに作りつけられている食器棚に向かい、その全ての扉、全ての引き出しを開け、シンクの下部にある収納扉を開ける。
「・・・ある意味片付いているよな、刹那?」
屈みこみ、シンク下の収納扉を覗き込んでいたロックオンの頭が、ギギギと、油の切れたロボットのようなぎこちない動きで、キッチンと廊下の境にある扉の位置でロックオンの様子を見たくもないが見守らされていた刹那へと向けられる。
「片付いているなら、良いだろう」
「片付いているっていうより・・・何にもねぇじゃねぇかよ!!」
どこのファミリー向けマンションだ!?と突っ込みたくなるくらいに、ふんだんに揃えられた各種食器もカップもグラスもコップもカトラリーも、鍋や薬缶に至るまで、全てが綺麗さっぱり消えている。
「使ったものは片付けろ、と、お前が言った」
「・・・確かに言った。で、お前はどこにどうやって片付けたって?」
「そこに、」
刹那が指さしたのは、キッチンの端の方の壁に取り付けられているダストシュートの開閉口で。
「丸ごと片付けた」
「それは捨てたっつーんだっっ!!」
ダストシュートは放り込んだものを、途中何箇所かに設置されたセンサーにより分類され、マンション地下にあるごみ集積場所へと送られる仕組みになっている。
そんな所に放り込めば、確かに見た目も意味合い的にも「片付く」が、それは自分が意図して意味とはかなり掛け離れた「片付け」方だ。
シンク横に置かれたステンレス台の中のママレモンと食器洗いスポンジとクリームクレンザーは一体何をする為のものだと思っているんだろう。
「・・・無くなったものをどうこう言っても仕方が無い。次だ、次・・・」
「的確な判断だ」
掃除の事といい、洗い物の事といい。
もう少しで力が抜けて、綿埃舞うフローリングへ膝を着いてしまうところだった。
だが、ここで力尽きる訳には行かない。
自分にはまだ、刹那にそれなりに人間的な生活を送らせるためにも、チェックをしたい箇所がまだまだまだまだあるのだから!と、自分を奮い立たせてみるが、余り役には立たなかった。
ストッカーには缶詰とプラスチックスプーンとフォークと缶切りにミネラルウォーター。
すっきり収納!と、言えば聞こえは良いが、たいして物が入っていないだけの、虚しさ漂う収納だ。
それでも、缶詰だけは多少の生活感を表しているが、妙に同じサイズの缶ばかりが揃っているように見えるのは気のせいか。
「BBQソースのビーンズにポークビーンズ、チリビーンズ・・・って豆ばっかりじゃねぇかっっ!!」
どうりで同じサイズばかりな訳である。同じメーカーから出ている、味付け違いの豆ばかりが綺麗に並べられている。
「味が違うから、良い」
「栄養的に良くないだろうっっ!!」
「豆は栄養豊富だ」
「人は豆ばっかで生きてる訳じゃないだろうっっ!!」
栄養的には『豆は畑のお肉です』とか、どこかで聞いたキャッチフレーズ通りにとても素
晴らしいものがあるとは思う。だが、それだけ食べていたところで、この歳よりも小さな
可愛らしい身長が素晴らしく伸びる訳でもないだろうし、抱きしめたらぽっきりいってし
まうんじゃないかと思う骨が太くなる訳でもないだろうに。
「・・・・」
「なんだ?何か言いたい事でも?」
本当に豆ばっかりかよ、と、ストッカーの缶詰を全部チェックしているロックオンに、刹那が不満そうな視線を向けている。豆ばっかだって言われたくなければ、せめてフルーツ缶でも混ぜておけ!と、心の中でぼやくロックオンに促され、刹那がぼそりと口にした。
「ロックオンはジャガイモばかりだ」
頭の中を過ぎるのは、刹那と食べたマッシュポテトにフレンチフライ、ジャーマンポテトに肉じゃがに蒸したポテトのバター添えに、ポテトサラダにコロッケに・・・。
「すみません。人の事ばかり言えませんでした」
その点に付いては素直に白旗を上げながら、ロックオンは冷蔵庫のタッチパネルに手を伸ばした。
誰が用意したものか、この部屋同様、冷蔵庫は刹那一人で使用するにはかなり大きなファミリーサイズで、電気代だけが無駄にカウントされていく無駄の象徴だ。
上から冷蔵室、野菜庫、製氷室、冷凍庫と御立派に4分割されていらっしゃるが、刹那が今回どこまで活用しているんだろうかと、まずは一番上の冷蔵庫のパネルに触れて扉を開いた。
手を触れれば簡単にがしゃりと扉を開ける冷蔵室は、良くあるタイプで空いた扉側が飲み物等を縦型に収容できる造りとなっている。
そこには、紙パック容器の牛乳が、並んで6本並んでいた。
正面の、棚によって区切られた空間には、やはり同じように牛乳パックがぎうぎうと詰められており、本来肉や魚を収められているべきチルドルームには、良く分からない白いパックが入れられていた。
刹那は『牛乳を飲んだら身長が伸びる』と、安易に言ったロックオンの言葉を信じてか、はたまた好物なだけなのか牛乳を良く飲んでいるのを知っているので、冷蔵庫内の飲み物が牛乳一色でも驚きはしないが、扉側の6本は全て封切られている事になんとなく違和感を覚えて、ロックオンは封切られた牛乳をじっと見つめた。
なぜだか、ここでも同じメーカーの牛乳で揃えられている。
先程の豆と言い、微妙な拘りがあるのか、それとも考えるのが面倒なだけなのか。
多種多様な牛乳メーカーと乳成分のものが並んでいれば、味比べをしたのかもとスルーしただろうが、同じメーカーで味比べも何も無いだろう。
扉側の一番奥にある牛乳パックを手に取ると、まだ半分くらい残っていそうな重さがあった。
「えーと・・・」
念のために賞味期限を見て、ロックオンは固まった。
「・・・?どうした、ロックオン」
牛乳パックを見てなぜあいつは固まるのか?
刹那の声に我に返ったロックオンは、扉側に立てられていた残り5本の消費期限を確認し、
全てを冷蔵室から取り出してシンクに並べた。
「刹那」
「あぁ」
「これはいつの牛乳だ?」
「多分、前回と前々回と前々々回と、ここに来た時に購入したものだが」
「開封したのも、その時だな?」
「あぁ」
「刹那」
「あぁ」
「チーズやヨーグルトは牛乳と同じように乳製品だが・・・」
「あぁ」
「飲み残した牛乳から製作されるものでは決して無いと思うんだが・・・」
「あぁ」
「・・・ここにヨーグルトが6本出来てるって、どうなんだろうな」
「・・・・・」
扉側に並べられていた開封済の牛乳は、全て消費期限が遥か前に切れており、液体が半固体へと進化すらして、甘酸っぱい初恋の匂いを撒き散らしていた。
「刹那」
「あぁ」
「冷蔵室の中の牛乳で、消費期限の切れたものは全部捨ててしまいなさい」
「あぁ」
っつーか、部屋に戻った時に以前に飲み残した牛乳の存在に気付いたら、さっさと捨てろっっ!!ロックオンは心の中で泣き叫びながら、シンクに捨てられる牛乳の目に来る酸っぱさに現実でも涙を浮かべた。
冷蔵室内の半分の牛乳がどうやら消費期限切れだったらしい。
買い物に行くのが面倒だからと纏め買いするのは良いが加減をしろ、と言うか知れ。
次は、チルドルームに入っていた白いプラスチックパックの確認だ。
容れ物は2種類あり、どうやらそれぞれ違うもののようだ。
片方のプラスチックパックは上部にプラスチックフィルムが貼られており、そこにはTOHUとプリントされている。
「トーフ?」
「隣の沙慈・クロスロードからジャパニーズトラディショナルフードだと言って貰った」
「なるほど」
いつぞや見かけた事があるが、隣人の少年は刹那と同じくらいの歳のようであったから、ご近所付き合いとかいうので貰ったのだろう。
だが、刹那には日本食に関しての知識も無く、また調べる気もさらっさら無くて、そのまま冷蔵室に放置されたのだろうという事が容易に想像できた。
だが。
「刹那」
「あぁ」
「このトーフ、貰った時には水が中に入って無かったか?」
「入っていた。そのままそこにしまっただけだ」
「刹那」
「あぁ」
「なんで水分たっぷりのはずのキヌゴシトーフが、こんなに干からびちゃってるんだろうな・・・」
トーフとプリントされたプラスチック容器を振れば、エジプトのミイラのようになり果てたかつてはトーフであったと思しき物体が、中で左右にカラカラと音を立てて踊った。
哀れなその物体もダストシュートに放り込み、もう一つの物体を手に取った。
そこには『NATTOU』とプリントされている。
主原料は刹那の大好きな豆で、消費期限は牛乳同様はるか以前に遡る。
プラスチックフィルムを剥がして、ぴったりと止められたプラスチック容器の口をこじ開ければ、そこには今まで目にした事の無い新しい世界の新種の食材が、素晴らしい臭いを放ちながら存在を主張してくれるだろう事が想像できて、ロックオンは刹那に何も語ることなく、開かれたままのダストシュートの入口に、力いっぱい投げいれた。
素晴らしい腕前を持ったスナイパーは、物を投げ入れる腕前も素晴らしいものらしく、ダストシュートの内部の壁にガコンと当たった音を立て、NATTOUは刹那の部屋から永遠に姿を消した。
「危なかった・・・。開けたら多分、生命の危機だ」
「・・俺の名前か?」
「それはセイエイ。今言ったのはセイメイ」
リヒティ辺りだったら狙って言っているのだろうが、刹那は天然だ。それ以上、深くは追求すまいと、今度は野菜庫をガコンと引っ張り出した。
刹那には料理の腕がない。なので、自分から野菜を買って何かをしようという事は無い筈で、野菜庫は綺麗なままの筈なんだが。
「刹那」
「あぁ」
「この、素敵に咲き萎れた花は何かな・・・」
「ネギだ」
「刹那」
「あぁ」
「この前衛的に活けられてそうな植物は何かな?」
「父親か母親になりそこねたジャガイモだ」
野菜室の中にはいる筈の無い住人が住んでおり、しかもそれらは新しい形へと進化を果たしていた。ネギはいつから入っていたのか、入れた時には既に進化していたのかフワフワとした葱坊主と成り果て、ジャガイモは入っているビニール袋の中で半スライムの液状化現象を起こしながら、芽と根を頑張って伸ばしながら息絶えていた。
「刹那」
「あぁ」
「お隣さんから貰ったのか?」
「あぁ」
「・・・自分で調理出来ないなら、進化する前になんとかしなさい」
「ロックオンが作りに来るかと思った」
「刹那」
「あぁ」
「そういう時には連絡しなさい」
「あぁ」
食べ物を粗末にすることにはひどく心が痛むが、生のままネギやジャガイモを食えとは流石に言えないし、まして自分が来た時に調理するだろうと残しておいたと言われれば、文句が言いたくとも『可愛い事言うじゃねぇかこの野郎!』と、言いたい事も言えやしない。
背後に立つ刹那に指でコレをあそこに、という指示を出せば、大人しく進化した物体をダストシュートに放り込んだ。
ネギはともかく、半スライムのジャガイモはさすがに感触として気持ち悪かったらしく、ジャブジャブと刹那は手を洗い、タオルでもハンカチでも無く、首に巻いた赤い布で手を拭った。
「刹那」
「あぁ」
「手をスカーフやマフラーやらで拭かない」
「善処する」
そういうと、まだ湿ったままの手を、ロックオンの吸湿性の良さそうな綿シャツの端で拭い始めた。
確かに赤い布よりは吸湿性に富んでいるだろうが・・・、そういう意味では無い。
深く気にすると、今までの事も全て追求しなくては気が済まなくなるので、ロックオンは深い溜息を付いて自分の心を落ち着けた。
製氷室は流石に氷以外の住人は居らず、ある意味この冷蔵庫内での唯一の聖域だった。
だが、その氷もいつ製造されたものか定かではないので、念のため全て捨てて、作り直しの為の水を庫内の製氷用水口に注いでおく。
これで、次に出来た氷はしばらく安全なはずだ。
次は冷凍室。
ここもある意味、今までよりはマシな筈である。
何せ敵は凍っているのだから。
カラリと引き出した冷凍室の引き出しは・・・予想以上のもので溢れ返っていた。
お弁当用などと銘打たれた冷凍食品の数々に、ピザやグラタン、ピラフ等々。
「刹那」
「あぁ」
「外食は止めたのか?」
「お前がファーストフードはなるべくやめろと言った」
「あぁ」
「俺は料理をした事が殆ど無い」
「あぁ」
「肉や魚を火で炙るだけならなんとかなるし、野菜も鍋に放り込んで煮込むだけならなんとかなるが」
「なんとかなるなぁ」
「美味しく無い」
「刹那っっ!!」
口に入る、人類の食べ物として認識されるモノであれば、味も見た目もどうでも良いとか抜かしやがった2年前から、どうやら刹那の味覚は飛躍的に進化を遂げていたらしい。
ママ、感激!!とばかりに、ロックオンより遥かにちっこい刹那をぎうぎうと抱きしめる。
あぁ、これで口うるさく言いながらも手料理を食わせ、食べ歩きに連れ出し、色んな味覚を与え続けた甲斐もあったというものだ!!
その行き着く果てが冷凍食品なのはイマイチ納得できないが、イマドキは冷凍食品の種類も味も豊富になっているので、2年前に比べたら少しはマシ!と無理やり自分を納得させて、勝手に感激し盛り上がっておこう。
何せ、大人しく刹那がぎうぎうと自分の腕の中に納まっているのだから。
元々が何だったのか、刹那を抱きしめた辺りで趣旨も行動もごちゃまぜどころか、自分の都合の良いように転換されているがまぁ本人がそれで良いなら良しとしよう。
「刹那」
「あぁ」
「あと、風呂とトイレとベッドルームとリビングも見たいんだけど」
「・・・・見るだけなら」
「刹那」
「あぁ」
「見るだけで済む状態になっていれば、な?」
「・・・・・・・」
「刹那」
「あぁ」
「何か心あたりでも?」
「・・・・・・」
「さぁ、まずはどっちに行こうか!!」
どうやら、ロックオンのチェックはまだまだまだまだ続くらしい。








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